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【事例取材#2】コロナ患者オンライン診療の記録~医師と患者が初診からICTでダイレクトに繋がるメリット~(後編)

▲今年4月に新型コロナウィルスに感染し、入院治療を経験した牧野誠氏

<この記事の前編を読む>

 

ビデオ通話の安心感は大きい。患者にとってのオンライン診療のリアル

 

 このコロナ禍でオンライン診療が注目を集めているが、その有用性や課題について、実際に経験した患者としてどのように感じたのだろうか。

 牧野氏は新型コロナウィルス感染を疑ってから、比較的早い段階でかかりつけ医の山下氏によるオンライン診療を受けている。「その日(4月6日(月))は少ししんどかったこともありますが、何より病院に行きたくなかった。ちょうど、コロナの患者さんを受け入れたクリニックで患者さんが激減してしまったという報道があった頃だったので、もし私が感染していたら病院に迷惑をかけてしまうと思ったからです」と、最初はとにかくオンライン診療ができるというだけで安心できたと述べている。通院を避けたい患者にとって、外出しなくても診察を受けられるメリットがオンライン診療にあることは言うまでもないだろう。

 初めてオンライン診療を受けるにあたりハードルになると懸念されるのがデジタル機器の扱いだ。しかし、事前登録や実際の診療手順については、日常的にスマホやパソコンを使えている程度のITリテラシーがあれば、さほど難しく感じないようだ。山下診療所の場合、クリニックのホームページにある「オンライン・電話診療」のページにアクセスすれば手順が記載されているので、それにしたがって準備を進めればいい。専用アプリ「curon(クロン)」をダウンロードして利用した。「操作はスムーズでした。普段からECサイト(オンラインショッピング)を使っている人なら登録から予約、問診、ビデオ通話など、ストレスなくできるのではないでしょうか」。

▲オンライン診療専用アプリ「curon(クロン)」のチャット画面。アプリから予約確認のメッセージが送られてくる

 

 牧野氏は、対面診療とオンライン診療との違いについて「聴診器で呼吸音を聞くことができないのが少し心配でしたが、(喘息があるので)自分の呼吸については常に注意していて、どういう状態か言葉で伝えました。ビデオ通話でも顔色や全身の状態を見てもらえて、おおよそのことはできるんだなと思いました」と語る。興味深いことに、対面診療よりもオンライン診療の方が言葉が多くなったという。「対面では先生との間に暗黙の了解があるというか、“言わなくてもわかるだろう”という気持ちがどこかにあり、あまり言葉で伝えないのですが、ビデオ通話だと“きちんと伝えないと伝わらないんじゃないか”という気持ちがあったんだろうと、今になって思います。だから、言葉数を多くして事細かに伝えるよう心がけましたし、山下先生も丁寧に対応してくださったので、かえって密なコミュニケーションが取れたと感じています」。

 また、牧野氏自身は利用しなかったが、現在は電話によるオンライン診療も認められているので、これについても聞いてみたところ、「そこには明らかに違いがある」と言う。「仕事で同僚や部下と話をする時も同じですが、声のトーンだけでは相手が喜んでいるのか怒っているのかもわかりません。しかし、そこに映像があれば表情から相手の感情も伝わってきます。ビデオ通話での診療では、先生に表情や顔色を見ていただける安心感があります」。

 そして、今回の事例の中で、牧野氏の不安解消に重要な役割を果たしたと思われるのが山下氏との直接の繋がり、つまりSMS(ショートメッセージ)によるやり取りである。前述の通り、山下氏は4月13日(月)、3度目のオンライン診療の際に携帯電話番号を伝えていた。山下氏としては、検査もできず辛そうにしている牧野氏に対して「困ったらいつでも連絡を」との思いがあったわけだが、患者としてこれほど心強いことはなかっただろう。これについて牧野氏は、山下氏と直接連絡が取れる状態にあること自体が心の支えになったと感謝しつつ、電話かけることには迷いがあったと話す。「お医者さんというのは、患者さんを診察して、診察料を受け取るということを生業としているわけです。だからちょっと具合が悪くなったからといって気軽に電話してしまうというのは、商売の根底を覆すことになってしまうから、そういうことをしてはいけないと考えています」。しかし、時間非同期の連絡手段であるSMSであれば、患者・医師ともに相手に気兼ねなく気軽に書き込める。「だから電話ではなくSMSを使ったのですが、それでも相談をしてはいけないと思い、“検査を受けました”“陽性でした”“入院できました”というように報告だけをしていました」。それらの報告に対し、必ずしも即時ではないが逐一山下氏から返信がきた。オンライン診療だけでなくメッセージのやり取りを通しても、医師が継続して自分の状態を見てくれている。そのことが、辛い時期に非常に大きな支えになったと牧野氏は振り返る。

▲山下氏とのSMSのやり取り。PCR検査の実施と結果の報告をしている

 

 今回の経験を通して、また患者の立場として、オンライン診療の有用性と今後の可能性について聞くと、「移動しなくていいメリットを実感した」と牧野氏はいう。感染症流行時はもちろんのこと、台風や大雪といった悪天候の時にも、できれば外出することなく診療してもらえれば患者としてはありがたい。また、「僕の実家の両親のように地方に住む高齢者は、車の運転ができなくなると病院通いが難しくなります。そういう地域も含め、これからもっとオンライン診療が普及してほしいと思います」。

 ただ、問診票の入力、処方箋と薬の取り扱いについては改善の余地があるのではないかと牧野氏。「オンラインの問診票は、毎回ゼロから入力するのを面倒に感じました。前回のデータをもとに、その後お熱はいかがですか?といった経過質問をしてもらえると嬉しい」と感想を語る。急がなければ宅配便で薬を届けてもらうという選択肢もあるが、すぐに薬が必要な場合は処方箋を取りにクリニックへ行き、薬局にも行かなければならない。牧野氏は妻に代行してもらったが、それでも当然リスクはあるし、もし家族がいなかったら自分で行くか薬が届くまで耐えるかの二択になってしまう。制度上、致し方ない面もあるが、今後は何らかの工夫が求められる。

 

感染症流行下ではトリアージも可能。医師から見たオンライン診療の意義とは
 
 従来、電話やスマートフォンなどの情報通信機器による診療は再診のみで可能だったが、新型コロナウィルス感染症の感染拡大を受け、この4月から初診でも可能となった。時限的・特例的ではあるが、オンライン診療の “解禁”は院内感染を含む感染予防という面で有用であるのは間違いないし、普及すれば保健所に相談が殺到することも避けられ、負担は軽減されるはずだ。また、今回紹介した牧野氏の体験からは、患者にとっても多くのメリットがあることが分かる。2016年からオンライン診療を実施している山下診療所でも、この4月以降はオンライン診療の患者数が増えている。最近では感染者の時間分離を徹底するため、非感染時間帯に発熱者が来院した場合、院内に入れずにオンラインで診療するという対応をとっているほか、6月からは専用アプリより手軽なLINEでの診療もスタートした。
 
 オンライン診療による診断を危惧する声もあるが、対面診療であってもPCR検査などをしなければ診断はできない。また、問診によって主要な発熱疾患(扁桃炎、腎盂炎等)の大半は鑑別できる。山下氏は今回のような感染症流行下におけるオンライン診療の意義として次の点を挙げる。
1. 慢性疾患の管理:高血圧や糖尿病などの慢性疾患のため定期的に通院していたが、感染が怖くて受診できない患者など。
2. 初診相談:微熱が続く、息苦しい、喉が痛いなどの比較的軽い症状があり、通勤・通学を迷っている患者など。
3. コロナ疑い患者の診療:発熱など明らかな症状がある患者。
4. 感染後のフォロー:比較的軽症で自宅や宿泊施設で療養している患者。
このうち2、3においては重症者と軽症者のトリアージが主な目的で、必要があれば継続的にフォローする。この段階では不安を抱えている患者が多いため、その不安を解消することも重要であり、この点でビデオ通話が非常に有効だという。牧野氏の場合も「外出してはいけないという思いの中で、昔から知っている医師に会えたという安堵感のようなものが伝わってきた気がしました」(山下氏)。
 
▲山下氏(左)と牧野氏 
 
 

 山下氏はオンライン診療においてビデオ通話のほかオンライン問診、SMSも活用しているが、なかでもビデオ通話の役割は大きく、患者の顔色や全体の雰囲気など、継続して診療することで患者の変化を視覚的に捉えることができる。聴診器は使えないが、息づかいや咳の状態などからある程度は呼吸器症状を観察することができ、患者の重篤度を評価することも可能だ。特にこの重篤度の評価は電話では難しいので、保健所の電話相談には限界があると山下氏は考えている。対面との違いということでは、家の中の様子(家族との関係、居住環境の様子)、残薬の状態などオンラインだからこそ得られる情報を積極的に採取すること、視線を時々カメラに合わせるなど患者から見られていると意識することは医師として心がけているといい、慣れないうちは聞き忘れなどが起きやすいので、かけ直しを厭わないことも大切だという。

 オンライン問診について山下氏は、患者の訴えの要点がわかること、書き込む量で訴えの強さを感じられること、身長・体重など聞き忘れがちな項目がカバーされていることなどをメリットとして挙げた。そしてSMSについては事務的な連絡にとても有効だったと言う。前述の通り、牧野氏は「安心感はあるものの、医師には気軽に電話やメールで相談すべきではない」とのスタンスだったが、この点については「なぜかあまり負担に感じることはありません。即座に返答を求められると負担かもしれませんが」と山下氏。電話ではなくSMSを使ったこと、症状などは書き込まず報告のみにとどめていたことなどに牧野氏の配慮を感じたといい、別のケースでも「事前情報として症状などの書き込みをされますが、目は通しても返事はそこではしないことにしています。あらかじめそうした取り決めはあってしかるべきかと思います」。

▲「curon(クロン)」のオンライン問診画面

 

「オンラインか対面か」の二者択一ではない

 

 医療界だけでなく市民の間でもオンライン診療に注目度が高まってきたのは歓迎すべきことだが、実際にオンライン診療ができる医療機関はまだまだ少ない。今後、その有用性がさらに高まり、広く普及していくために必要なものとして、山下氏は「咽頭鏡・耳鏡・鼻鏡・眼底・聴診(将来的にはエコー)など生体情報を取得するためのデバイス」「外来診療においても、SMSなど時間非同期のツールと時間同期のオンライン診療を含めて総合管理をするという発想」を挙げる。また「検査データなどの患者との共有」も必要であるといい、そのためにはPHR(Personal Health Record)を患者が管理できる環境になることが望まれる。

 コロナ感染者や感染疑いの患者を含むオンライン診療の事例が増えていくなかで、山下氏は「医療は診断と治療といった枠組みの作業だけではなく、管理や経過観察・指導といった要素が多くを占めていること」に改めて気づかされたという。1回の診察だけでなく、複数回の経過観察があって初めて診断ができるというケースは多く、ビデオ通話による診療を経過観察によって補完できるSMSなどのツールは非常に有用といえる。また、対面診療、オンライン診療、検査などを含めて初めて診断・診療が成り立っているのだという山下氏の言葉からも分かるように、これからの医療においては「オンライン診療か対面診療か」の二者択一ではない。どちらも一つのツールであり、より良い医療のためにはそうしたツールをいかに有効に活かすかということこそが本質だろう。

 

取材・文/金田亜喜子、撮影/千々岩友美